
人間性に劣る行為 後藤樹史
最近、耐震偽装問題、証券詐欺、振り込め詐欺など聞くに耐えない犯罪が次々
に生まれている。諸々の小さな犯罪まで含めて行くと、あまりの常識のなさと
人間性を冒涜したその行為に、怒りを通り越して言葉すら出なくなってくる。著作権の分野でも忌わしい事件が後を断たない状態である。
無断使用、不正申告、盗作などの犯罪行為が、公然と野放しにされているのが
現状である。
パソコンソフトなどの発達で、さまざまなグラフィックが簡単に複写・合成出
来る時代背景がこれに拍車をかけている。非常な憤りとやるせなさを感じる毎日
であるが、我々イラストレーターの著作権というものが、貴金属や土地、建物と
いった“モノ”ではなく、目に見えない権利だけに、それが安易に考えられて
いることが非常に歯がゆい。しかし、それにも増して、憂慮すべきなのは、広告、印刷業務に携わる企業や
スタッフのモラルの無さという点であろうか。カタログや印刷物から画像をス
キャンし、あるいは、トレース、合成したりして商業紙・誌に掲載し、印刷物
などに公然と使い続けている事実を見てもそれはわかる。このような悪びれることのない、むしろ場合によっては、居直ることすらある
事実はどう表現すればいいのだろうか? イラストを生業とし、長年にわたり
創作活動を続けて来た私にとってみれば、広告界のあまりの腐敗しきった現状に
危機感を覚えてしまうのである。正直者が何も言えず、無視され馬鹿を見る時代
といえばいいのだろうか。こうした現状を何とかしなければ、我々制作者は、
今後、創作活動を続ける気力も情熱も消え失せ、同時に、作品の質の低下を招
くことにもなりかねないだろう。一つのイラストが完成するまでの間には、はかり知れない努力が必要である。
技術的なこともさることながら、むしろ、一つのイメージを考案し、何度も洗
い直しをしたうえで、完成にまで持っていくのは、かなりの根気と忍耐が必要
なのである。つまり、幾つかのインスピレーションが形となり、一つのイラスト
として実を結ぶまでには、何段階もの試行錯誤を経なければならない。なかでも
立体イラストを制作する場合などは、通常の作品の何倍もの時間が必要
なのである。こうした目に見えない、水面下の努力が理解されず、平気で不正を繰り返す
人間が一向に減らないという現実には、腹の底から怒りがこみ上げて来る。
知的財産権に対する認識が低く、また勉強しようという気もなく、利潤のため
には、どんな手段を使っても構わないという考え方の人々には、断固制裁処置を
取る以外にいかなる方法もないように思う。一度、あるプレゼンテーションで、私が好意で貸したポジフィルムを返
そうとせず、制作者の私に無断で、ある会社に売り払ったという人間がいた。
一方、その会社は、私の作品を無断でポスターに何年も使い続け、発見された
後も、当方のいかなる問いかけにも真摯に答えようとしなかった。その会社が言
うには、どこそこの人間から私の作品を買い取っただけの返答で、その人間
がどこの誰なのか明らかにすることなく、納得のいく回答を返さないばかりか、
その後も無視し続けたのである。そして、私の作品を売り渡したという人間も、
そのまま行方をくらませてしまったのである。また、私の立体イラストをそっくりトレースして、何万枚もチラシとして配布
し続けた会社があった。その会社は、自らの不正行為を指摘されると、「辞めた
社員がトレースの練習にしていた作品が引出しにあったので使った」などという
信じられないこと悪びれもせずに言って来たのである。
さらに、正規で借りればこれぐらいだから、その程度の料金を払うことでいいで
しょうと平然と言い返して来る。発見されれば通常料金を支払い、発見されなければしめたものという考え方は、
悪質であるばかりか、犯罪者の心理に他ならない。悪質なのは企業だけでは
ない。そういう企業と結託し、ヒルのように吸い付いている悪徳顧問弁護士など
も、同列と見なければならない。彼らは、不正使用した企業に、未解明部分の申
告を拒ませたり、著作権法を都合の良いように曲解して入れ知恵をする。一方、入れ知恵を受けた会社は自己保身にのみ終始し、だんまりを続け、時には
居直って反論してきたりするのである。全く、呆れ返って声も出ないぐらいだ。
そこには、罪の意識どころか、反省の色さえないといって良い。過去に、ある企業が、明らかな盗作行為を繰り返していたにもかかわらず、
話し合う以前に、何を血迷ったのか、いきなり訴状(遠隔地から債務不存在の
訴えを提起)を当方に送りつけて来たケースがあった。
その訴状には、相手方の弁護士の名前が20名ほど書き連ねられ、厳めしく印鑑が
方々に押されていた。法律に疎い我々が見れば、脅威を感じるような文面である。
そこには、権威というものを傘に着て、弱者である我々イラストレーターを押し
つぶそうとする彼らの傲慢さが見え隠れしていた。結局、裁判が進むに連れ、その会社は、自ら望んだ手段で自らの墓穴を堀ると
いう結果を招き、二進も三進もいかなくなった末、平身低頭して和解案を出さ
ざるを得なくなったのであった。
このような例は枚挙に暇がない。
被害を受けた我々イラストレーターが発見出来る不正行為は、全体の被害のごく
一部に過ぎないのが現状である。
ちなみに最近になって発見された、数社の企業サイトのトップ頁に使用されて
いた私の立体イラストは、すべて無断使用であった事実をここに並記しておく。このような行為が国民の一人一人によって犯罪と認識されない以上、この種の
著作権侵害事件は後を絶たないのではないだろうか。
出版界、広告界に携わる方々にはプロとして、利潤を考える前に、法律を順守
するという最低限のモラルを堅持して頂きたいと痛感する。
広告主企業にしても良識ある経営理念に立ってコンプライアンスを重視し、著作
権侵害などという破廉恥なトラブルを未然に防ぐための制作管理システムを築
いて頂きたいと思う。著作権の侵害が野放しにされている現状に対して、危機感を感じると同時に、
何らかの防衛措置を取る必要に迫られていることを痛感して止まないのは、私
一人ではないはずだ。
後藤樹史(ごとうたつし)立教大学経済学部を卒業後、デザイン学校でイラストレーションを学び、いきなり
フリーで活動を開始。プロ歴約20年。アート系美術系の公募展を中心に出品し入選
受賞歴30回以上。
「得意なジャンルは、ファミリー的タッチを生かした立体作品。多くの人々の中に
自分がいて、心が通じ合っているような暖かいテーマを創造していければと考
えています」
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